空への教会
-解き放つ場-
(日本イエス・キリスト教団垂水教会)
この建築の特徴は、壁にあります。自立する壁が、教会の中心に位置する礼拝堂を、円の軌跡を描きながら囲んでいます。
なぜ、礼拝堂に、このような空間構成を与えたのか。それは「理想の教会建築を」という垂水教会(プロテスタント)の方々の思いを受け、2つの大切なことを追求することから始まりました。ひとつは「内面を見つめる人間の心を包み込む空」ということ。もうひとつが「内側に向いた人間の心を大きな世界へと解き放つ場」ということです。このふたつを満たす空間の実現が、めざす教会建築のテーマとなりました。
礼拝堂は、人間の内面を一気に高みに向かって解き放つ場ではないだろうか。そう考え、平行な壁を重ね合せることで、礼拝堂空間を形づくることにしました。壁相互の平行な位置関係は、交わることなく無限に続く広がりをつくり出します。さらに、その壁ひとつひとつが垂直に立ち上がることによって、空へと向う高まりを生み出します。同時に、礼拝堂は人間自身の内面への語りかけを静かに包み、守る空間でもあります。そのため、穏やかな求心性をこの空間に与えたいと考え、平行な壁の列が円の軌跡を描いて礼拝堂を包む構成としました。この「解き放つ場」と「包む空間」という2つの性格を、共にもつ礼拝堂空間をつくっているのは、壁というひとつの要素のみです。その単純さの中にこそ、力強い礼拝堂空間を実現できると考えました。
さらに、壁は、光を受け止め、光に表情を与えることができます。その光の表情が「解き放つ場」と「包む空間」の性格を際立たせるように壁を構成しました。正面の砂岩割肌の壁全面には、真上からの自然光が、光と影の強い対比を作ります。そこに人の心を一気に高みへと連れていくような力強い表情が生れればと考えました。また礼拝堂を囲むコンクリートの均質な壁面には、横からの光が、穏やかに入り込みます。そこに、人の心を包むような表情が生れればと考えました。
外観や、そこに至る道程においても、「解き放ち」「内面を包む」空間の実現をめざしています。坂の下から見上げると、高さを変えて垂直に立ち上がる壁の群が目に入ります。その壁の重なりが生みだす高まりに、空に向けて解き放つ造形を表現しました。また、坂を上り、折り返して、穏やかな円を描くスロープへと移行する場所に、内面へと向う心を静かに包み込む空間をつくりました。
この建築空間の中で、人間の内面がより深まり、より高まることを願っています。
(新建築1995.5掲載)